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専門家レポート

expert report

マンションの見守りを「善意」から「仕組み」へ

孤立死と災害時の要配慮者支援を、管理組合はどう考えるべきか

マンションで暮らす高齢者が増えるなか、管理員や近隣住民が「最近、姿を見かけない」「郵便物がたまっている」といった異変に気づく場面も増えています。

独居高齢者または高齢者のみの世帯が増える中、災害時要配慮者名簿の作成等、管理組合として対策を行っているマンションの割合はまだ高くありません。多くのマンションに支援を必要とする可能性のある人が暮らす一方で、平常時・災害時の対応体制は、十分に整っていない実態がうかがえます。

マンション居住者の見守りを、管理員や一部の役員の経験、責任感、善意だけに依存させてよいのでしょうか。

管理組合が高齢者の生活全般を支えたり、介護を担ったりする必要はありませんが、異変に気づいた人が迷わず連絡でき、災害時に支援を必要とする人が取り残されないための「仕組み」は必要と考えます。

高齢者だけが「要配慮者」ではない

災害時に配慮が必要となる人は、高齢者だけではありません。

「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」では、主に次のような人が挙げられています。

  • 避難時の移動が難しい高齢者
  • 認知機能の低下が見られる人
  • 視覚・聴覚・肢体などに障害がある人
  • 難病や慢性疾患があり、医療機器を使用している人
  • 妊娠中の人、乳幼児や児童
  • 日本語に不慣れな外国人
  • 要支援・要介護状態にある人

必要となる支援は、本人の状態だけでは決まりません。

例えば、歩行が困難な人でも、1階に住んでいる場合と、エレベーターが停止した高層階に住んでいる場合では、必要な支援が大きく異なります。居住階、避難経路、段差、家族構成、日中独居かどうかなどを含めて考える必要があります。

つまり、年齢だけで一律に支援対象を決めるのではなく、

災害や緊急時に、どのようなことで困る可能性があるのか

という視点で考えることが重要です。

日常の孤立死対策と災害時支援は、別々の問題ではない

平常時の見守りと、災害時の要配慮者支援は、異なる取り組みに見えます。

しかし、両者には共通して必要なものがあります。

  • 居住者の状況を把握する
  • 緊急連絡先を確認する
  • 異変に気づいた場合の連絡先を決める
  • 安否確認の方法を決める
  • 誰が、どこまで対応するかを明確にする
  • 個人情報の保管・利用ルールを定める
  • 役員交代後も情報を引き継ぐ

平常時に連絡体制が整っていなければ、災害時に突然、機能することは期待できません。

反対に、災害時の安否確認や連絡方法を平常時から整理しておけば、孤立死が疑われる異変や急病などが発生した場合にも、対応しやすくなります。

「異変に気づくこと」と「生活を見張ること」は違う

見守りという言葉から、居住者の生活を監視するような印象を受ける人もいるかもしれません。

しかし、管理組合に求められるのは、個人の生活へ必要以上に立ち入ることではありません。

大切なのは、日常の管理業務や近隣での生活のなかで明らかな異変が確認された場合に、その情報を放置せず、適切な相談先へつなぐことです。

自治体が案内する異変の例には、次のようなものがあります。

  • 新聞や郵便物が数日分たまっている
  • 洗濯物が長期間そのままになっている
  • 雨戸が数日間閉まったままになっている
  • 昼夜を問わず照明がついたままになっている
  • 最近、姿を見かけなくなった
  • 室内から異臭がする

これらは、孤立死や急病を断定するものではありません。ただし、普段と異なる状態が続いている場合には、本人への連絡や関係機関への相談を検討するきっかけになります。

管理員や役員だけで判断しない

異変に気づいたとき、対応を管理員や理事長個人の判断に任せてしまうと、大きな心理的負担が生じます。

例えば、次のような判断を一人で行うのは容易ではありません。

  • 何日連絡が取れなければ安否確認をするのか
  • 緊急連絡先へ誰が電話するのか
  • 警察や消防へ連絡する状態か
  • 管理会社や行政へ相談すべきか
  • 専有部分へ立ち入る必要があるか
  • 対応内容を誰に報告するのか

そのため、管理組合内で、あらかじめ簡単な対応フローを決めておくことが重要です。

対応フローの例

1.異変を確認する

郵便物、照明、異臭、長期間の不在など、確認できた事実を記録します。憶測や病気の診断を書き込むのではなく、「いつ、何を確認したか」を客観的に残します。

2.複数人で情報を共有する

管理員だけ、理事長だけで判断せず、管理会社や複数の役員へ報告します。

3.本人へ連絡する

インターホン、電話、登録された連絡方法などで安否を確認します。

4.緊急連絡先へ連絡する

本人と連絡が取れない場合は、届け出られている家族や親族などへ連絡します。

5.状況に応じて関係機関へつなぐ

室内から助けを求める声がする、倒れている姿が見える、火災や重大な事故が疑われるなど、緊急性が高い場合は、消防や警察への連絡を優先します。

緊急性の判断が難しい場合や、孤立が疑われるものの管理組合だけでは対応できない場合は、自治体や地域包括支援センターなどへの相談も選択肢になります。

重要なのは、管理組合がすべてを解決することではありません。

異変を発見し、適切な専門機関へつなぐところまでを仕組みにする

という考え方が現実的です。

自治体の見守り制度・相談窓口を確認しておく

高齢者や孤立しやすい人を地域で支えるため、多くの自治体が独自の見守り制度や相談窓口を設けています。

取り組みの内容は地域によって異なりますが、例えば次のようなものがあります。

  • 地域包括支援センターによる相談受付
  • 地域住民や民生委員による見守り
  • 電気・ガス・水道・新聞・宅配事業者との連携
  • 異変を通報できる専用窓口
  • 福祉専門職による訪問・安否確認
  • 見守り機器や安否確認サービスへの補助
  • 災害時の要援護者支援制度

管理組合では、マンション所在地の制度を確認し、整理しておくとよいでしょう。

安否確認カードなら、個人情報を広く共有せずに済む

災害時の安否確認方法として、各住戸が玄関扉に「無事です」「支援が必要です」といったカードを掲示する方法があります。

担当者は、カードが出ていない住戸を優先して確認できるため、全住戸を一軒ずつ訪問するよりも効率的です。要配慮者災害対応マニュアルでも、安否確認カードを活用した確認方法が示されています。

この方法には、次の利点があります。

  • 居住者全員の詳細な健康情報を共有しなくてよい
  • 確認が必要な住戸を絞り込める
  • 担当者の負担を減らせる
  • 防災訓練で繰り返し練習できる
  • 高齢者以外の世帯も同じ仕組みに参加できる

要配慮者だけを特別扱いするのではなく、マンション全体の安否確認ルールのなかに必要な支援を組み込む方が、運用しやすい場合があります。

ITツールを「共助する側」の情報共有基盤に

見守りや災害時支援では、高齢者や要配慮者本人がスマートフォンを操作できるとは限りません。そこで重要なのは、本人にデジタル対応を求めるのではなく、管理組合・管理会社・管理員・防災担当者など、共助する側がデジタルを活用することです。

マンション管理ポータル「Class@CITY(クラッシー)」を活用すれば、安否確認を一斉配信し、回答済み・未回答の住戸を整理できます。未回答住戸や支援を必要とする住戸を把握し、戸別確認の優先順位や担当者、家族・関係機関への連絡状況を共有することも可能です。

Class@CITY(クラッシー) | マンション管理システム

ただし、オンラインで回答できない人を取り残してはいけません。安否確認カード、電話、インターホン、近隣住戸からの情報、戸別訪問などを併用し、デジタルで確認できない住戸へ人の支援を集中させることが大切です。

共助される側にデジタル対応を求めるのではなく、共助する側がデジタルを使い、支援が必要な人を見落とさない仕組みをつくる。

Class@CITYは、支援を受ける人のためだけでなく、確認や対応を担う役員・管理員を支え、役員交代後も情報と対応ルールを引き継ぐための基盤として活用できます。

管理組合が今から始めたい5つのこと

1.現在の連絡体制を確認する

緊急連絡先の登録率、更新時期、管理者、保管場所を確認します。

2.異変発見時の連絡フローを作る

管理員、管理会社、理事長、緊急連絡先、自治体、消防・警察の順序を、1枚の図にまとめます。

3.本人申出型の要配慮者登録を検討する

「高齢だから登録する」のではなく、本人が必要な支援を申し出られる形にします。

4.安否確認方法を決める

安否確認カード、インターホン、電話、オンラインでの安否報告、戸別訪問など、マンションの規模に合う方法を決め、防災訓練で試します。

5.毎年見直す

居住者、家族構成、身体状況、連絡先、役員は変化します。防災訓練や役員交代の時期に合わせ、情報とルールを更新します。

★まとめ★

独居高齢者や高齢者のみの世帯が暮らすマンションは、もはや特別な存在ではありません。

一方で、管理組合が介護や福祉の役割をすべて引き受けることも現実的ではありません。

必要なのは、

  • 異変に気づくこと
  • 迷わず報告できること
  • 適切な機関へつなげること
  • 災害時に安否を確認できること

を、マンションのルールとして整えておくことです。

見守りを特定の管理員や役員の「気づき」や「善意」だけに依存させると、その人が不在になったとき、仕組みも止まってしまいます。

管理員、管理会社、管理組合、居住者、家族、自治体、地域の支援機関が、それぞれ無理のない範囲で役割を分担することが、持続可能な見守りにつながります。

さらに、安否確認カードや自治体の相談制度、マンション向けポータルなどを組み合わせることで、特定の人へ負担を集中させず、役員が交代しても継続できる体制をつくることができます。

マンションの見守りは、誰か一人が背負うものではありません。

善意を否定するのではなく、善意が無理なく機能する仕組みに変えること。

それが、高齢化が進むマンションで、これから管理組合に求められる備えです。

yacneeマンション管理士