大規模修繕工事の談合事案を受け国交省が注意喚起― 管理組合が押さえたい適正な発注・業者選定のポイント ―

マンションの大規模修繕工事は、数千万円から、規模によっては億単位のお金が動く重要な事業です。
その一方で、管理組合の役員が工事や建築の専門知識を持っているとは限りません。そのため、設計コンサルタントなどの専門家に、調査・設計や施工会社の選定支援を依頼する「設計・監理方式」が広く利用されています。
ところが、2026年9月28日、公正取引委員会は、関東地区のマンション大規模修繕工事を巡り、設計コンサル業者と施工業者らが受注予定者や見積価格などを調整していたとして、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令を行いました。公正取引委員会
これを受けて国土交通省も同日、マンション管理センター、マンション管理業協会、日本マンション管理士会連合会などに対し、「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知等について」を発出しました。
国土交通省は、今回の事案について、管理組合等の信頼を損ない、その利益を害するとともに、大規模修繕工事の適正な発注を阻害するものとして注意喚起を行っています。
1 何が問題になったのか
公正取引委員会が公表した内容では、施工業者と設計コンサル業者の間で、工事ごとに受注予定者を決め、他の施工業者がその会社を受注させるために協力するなどの調整が行われていました。
さらに、設計コンサル業務の中で把握した管理組合の「設計予算」などの情報が受注予定者側に提供されていたことも認定されています。公正取引委員会は、こうした行為によって競争が実質的に制限されていたとしています。
ここで管理組合にとって重要なのは、
「複数社から見積りを取ったから競争が行われている」とは限らない
ということです。
外から見ると複数の会社が競争しているように見えても、その前段階で受注予定者や見積価格が調整されていれば、管理組合は適正な比較を行うことができません。
今回の事案では、公正取引委員会の審査過程で、設計コンサル業者が施工業者へ大規模修繕工事の発注情報を提供し、その施工業者が受注した場合に、工事請負契約金額の一定割合に相当する「手数料等」を施工業者から設計コンサル業者へ支払っていた事実も確認されています。
公正取引委員会は、これにより施工業者間の自由な競争をゆがめるおそれがあるとしています。

2 「設計・監理方式」が悪いわけではない
今回の問題を受けて、「設計コンサルタントを入れない方がいい」と考えるのは適切ではありません。
国土交通省も、大規模修繕工事では、調査・設計、技術資料作成、施工会社の選定支援などを設計コンサルタントへ委託する「設計・監理方式」が広く採用されていると説明しています。
重要なのは、設計コンサルタントを利用するかどうかではなく、
「管理組合側に立った中立的な専門家として機能しているか」
という点です。
今回の通知では、設計・監理方式を採用する場合には、設計コンサルタントや施工業者が受注予定者や受注金額などについて事前調整を行わないよう留意し、設計コンサルタントの中立性を確保した上で、適正な手続のもと施工会社を選定することが重要と明記されています。
つまり、これからの大規模修繕では、
「専門家を入れる」こと以上に、「その専門家と施工会社との関係が透明であること」
が重要になります。
3 責任施工方式では、より「業者選定」が重要になる
大規模修繕工事には、設計・監理業務を外部の専門家に委託する方式のほか、施工会社が施工内容や品質に責任を持って工事を行う「責任施工方式」もあります。
責任施工方式は、設計・監理にかかる費用を抑えやすい一方、独立した立場から施工内容を確認する牽制機能が働きにくくなるという面があります。
そのため、責任施工方式を採用する場合には、施工会社を決める段階で、
- 工事実績や施工体制
- 見積金額だけでなく数量・単価・仕様
- 保証内容や工事後の対応
- 選定経緯や評価理由
などを客観的に比較し、なぜその会社を選んだのかを後から説明できる選定プロセスをつくることがより重要になります。
また、施工会社に技術的な判断まで委ねる場合、管理組合だけでその妥当性を判断することは容易ではありません。国土交通省も、大規模修繕工事の発注に当たり、マンション管理士や建築士など外部専門家を活用することが有効としています。
つまり、責任施工方式であっても、
「施工会社に任せる」ことと「すべてを施工会社任せにする」ことは別です。
管理組合の側に立つ専門家が、業者選定や見積比較、仕様、重要な工程などを第三者の立場から確認し、発注の透明性と専門的なチェック機能を補うことが重要です。

4 チェックすべきは「工事会社」だけではない
大規模修繕工事では、施工会社の実績や見積金額に目が向きがちです。
しかし、適正な発注を行うためには、前述のとおり「どの施工会社を選ぶか」だけでなく、「その選定を誰に支援してもらうか」も重要です。
設計・監理方式では、設計コンサルタントが修繕仕様の作成や施工会社の選定支援など、発注プロセスに大きく関わります。一方、責任施工方式でも、管理組合だけで工事内容や見積の妥当性を判断することが難しい場合には、第三者の専門家から助言を受けることが考えられます。
つまり、方式を問わず、
「施工会社をどう選ぶか」と同時に、「その判断を支える専門家をどう選ぶか」
という視点が必要です。
yacneeでは「専門家選び」にも第三者の視点を
yacneeでは、「管理組合のお金を、もっと透明に」という考え方のもと、バックマージン等の利益相反を排除し、管理組合の立場に立った公正・中立な支援を基本方針としています。
その考え方に基づき、大規模修繕についても、設計コンサルタントや一級建築士等専門家の選定に関する助言や、設計・監理業務の見積内容を第三者の立場から確認する「適正診断・セカンドオピニオン」が重要と考えています。
施工会社だけでなく、「施工会社を選ぶ専門家」も第三者の目で確認する。
大規模修繕の透明性を高めるための一つの方法です。

5「談合違約金特約」を契約に入れるという方法
今回、もう一つ注目したいのが「談合違約金特約」です。
国土交通省は2025年6月、マンション修繕工事について、談合が認められた場合に、施工会社が管理組合へ違約金を支払うことを工事請負契約であらかじめ定めることが可能であると周知しています。今回の通知でも、改めてこの仕組みを紹介しました。
国交省が示した条項例では、独占禁止法違反による課徴金納付命令や排除措置命令などが確定した場合に、「請負代金額の○%」を違約金として支払うという仕組みが示されています。
ただし、違約金特約を設定していても、支払義務を巡って訴訟となる可能性や、違約金が実際に支払われないリスクがあるため、弁護士等の専門家に相談し、個別案件に応じて設定することが推奨されています。

★まとめ★
今回の事案から分かるのは、複数社から見積を取るだけでは、必ずしも適正な発注につながるとは限らないということです。
設計・監理方式でも責任施工方式でも、重要なのは、施工会社や専門家との関係を確認し、選定の経緯や判断基準を後から説明できる透明なプロセスを整えることです。
また、管理組合だけで工事内容や見積の妥当性を判断することが難しい場合には、マンション管理士や建築士など、第三者の専門家の力を借りることも有効です。
大規模修繕を「任せきり」にするのではなく、管理組合自身が納得して判断できる環境を整えること。
それが、大切な修繕積立金を守るうえでも重要ではないでしょうか。
執筆・監修|カンリノミカタ 専門コンサルタント
(マンション管理士)
カンリノミカタでは、管理組合の立場から、修繕工事や業者選定などマンション管理に関するご相談をお受けしています。
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