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専門家レポート

expert report

マンション総合保険の値上がりにどう備えるか

保険を「更新手続き」ではなく、管理組合の経営判断として見直す時代へ

マンション総合保険は、管理組合にとって欠かせない備えです。火災、風災、水濡れ事故、施設賠償、個人賠償、地震保険など、万一の事故や災害からマンションの共用部分と管理組合の財産を守る役割があります。

一方で、近年は「更新見積を見て驚いた」「保険料が大幅に上がった」「同じ補償内容なのに、なぜこんなに高くなるのか」という相談が増えていますが、マンション総合保険の更新は、単なる事務手続きではありません。

これからは、保険料、補償内容、事故履歴、建物の維持管理を一体で考える“管理組合の経営判断”として捉える必要があります。

なぜマンション総合保険の保険料は上がるのか

保険料が上がる理由は、大きく分けて三つあります。

第一に、保険料率そのものの改定です。損害保険料率算出機構は、火災保険の参考純率を算出し、会員保険会社に提供しています。2023年6月の届出では、住宅総合保険の参考純率について全国平均で13.0%の引き上げが示され、水災料率も地域リスクに応じて5区分に細分化されました。ただし、参考純率は実際に契約者へ適用される保険料そのものではなく、各保険会社の商品設計や付加保険料率等によって最終的な保険料は異なります。

第二に、自然災害の増加、建物の老朽化、修理費の高騰です。火災保険参考純率の改定背景として、自然災害による保険金支払いの増加に加え、住宅の老朽化や修理費の上昇が挙げられています。特にマンションでは、給排水設備や電気設備の老朽化に伴う水濡れ事故・火災リスクが高まりやすく、築年数の経過が保険料に反映されやすくなっています。

第三に、築年数別料率です。マンション総合保険では、築年数に応じたリスクを保険料に反映する考え方があり、保険会社によっては築5年、10年、15年、20年、25年といった節目で保険料が大きく変わる仕組みが採用されています。特に築20年を超えるあたりから保険料が上がりやすい傾向が指摘されています。

見落とされがちなポイント:保険金請求件数が次回保険料に影響する

マンション総合保険で特に注意したいのが、事故件数です。

2019年10月以降に更新を迎えるマンション総合保険では、過去の事故件数が次回の保険料に影響する仕組みが導入されています。成績計算期間は保険会社によって異なりますが、次回保険始期日から一定期間さかのぼった期間内の保険金受取件数などが保険料に反映されます。

ここで重要なのは、保険会社が見るのは「支払われた保険金の金額」ではなく、「保険金支払いを受けた件数」であるという点です。つまり、1万円の保険金請求でも、100万円の保険金請求でも、保険会社のカウント上は同じ1件として扱われる場合があります。

そのため、数万円程度の小さな事故について安易に保険金請求を行うと、次回更新時の保険料上昇によって、結果的に管理組合全体の負担が大きくなる可能性があります。保険を使うこと自体が悪いのではありません。問題は、「保険を使った場合」と「使わなかった場合」の総コストを比較せずに判断してしまうことです。

対策:保険金請求の前に「使う・使わない」のシミュレーションを行う

事故が発生したときは、まず損害状況を確認し、必要な応急対応を行うことが最優先です。そのうえで、保険金請求については次の三つを確認することが重要です。

1つ目は、現在の契約における事故算定期間を確認することです。事故日ではなく、保険金の受取日が成績計算期間に含まれるかどうかが問題になる場合があり、同じ事故でも保険会社によって件数の扱いが異なることがあります。

2つ目は、保険金請求した場合と、管理組合の自己負担で処理した場合の比較です。特に少額事故については、受け取れる保険金よりも、次回以降の保険料上昇の方が大きくなる可能性があります。

3つ目は、再発防止策を同時に実行することです。事故件数を増やさないための対策として、事故が起きそうな箇所の修繕、保険金請求実績の把握、過去事故への再発防止策等があります。

これからの管理組合に必要なのは、「保険金を請求できるか」だけではなく、「請求することが管理組合全体にとって合理的か」という視点です。

保険内容見直しのポイント

1. 保険金額は過大でも過小でもいけない

保険料を抑えるために最初に確認したいのが、主契約の保険金額です。多くのマンションでは、新築時や分譲時の設定が長年そのままになっていることがあります。保険金額が過大であれば保険料負担が重くなり、過小であれば事故時の備えが不足します。保険金額は「高ければ安心」ではなく、建物構造、復旧に必要な範囲、管理組合の財務状況を踏まえて検討する必要があります。

2. 免責金額を戦略的に設定する

免責金額、つまり自己負担額の設定も重要です。免責金額を設定すれば保険料負担を抑えられる可能性があり、少額事故の保険金請求件数を抑える効果も期待できます。ただし、免責金額を高くしすぎると、事故時の自己負担が重くなるため、管理組合の資金状況とあわせて判断する必要があります。

3. 水災補償はハザードマップとセットで考える

水災補償は、地域や立地によって必要性が大きく変わります。損害保険料率算出機構の2023年改定では、水災料率が市区町村単位で5区分に細分化されました。これは、水災リスクが地域ごとに異なることを保険料に反映する流れです。水災補償を外すか付けるかは、単に保険料だけでなく、ハザードマップ、浸水履歴、地下設備の有無、電気室・機械室の位置を確認して判断する必要があります。

4. 地震保険は火災保険とは別に考える

火災保険では、地震、噴火、またはこれらによる津波による損害は補償されません。これらに備えるには地震保険の契約が必要です。
また、地震保険金額は主契約の保険金額との関係で設定されるため、主契約の保険金額を見直すと、地震保険金額にも影響します。

5. 割引制度を活用できる管理状態をつくる

近年は、事故が少ないこと、計画的な修繕・点検が行われていること、メンテナンス実績があることなどが、保険料面で評価される流れがあります。保険料対策は、単に相見積もりを取ることだけではありません。日々の管理品質を高め、事故を減らし、履歴を残すことが、結果的に保険料抑制につながります。

管理組合が今すぐ確認すべきこと

保険更新の直前になって慌てるのではなく、満期の1年前から次の項目を整理しておくことが理想です。

  • 現在の保険料、補償内容、免責金額
  • 過去5年程度の事故履歴と保険金請求履歴
  • 給排水管、電気設備、屋上防水、外壁などの劣化状況
  • 小口事故を保険請求するか、管理組合負担にするかの判断基準
  • 水災・地震・個人賠償・施設賠償など、必要な特約の整理
  • 複数保険会社での比較見積もり
  • 理事会・総会で説明できる見直し理由

特に、事故履歴と保険金請求履歴は、次回保険料に大きく影響します。管理会社任せにせず、管理組合としても記録を持ち、理事会で確認できる状態にしておくことが重要です。

保険料を下げることだけが目的ではない

マンション総合保険の見直しで最も大切なのは、「安くすること」ではありません。必要な補償を削りすぎれば、事故や災害が起きたときに管理組合が大きな負担を背負うことになります。

一方で、過大な補償、見直されていない保険金額、少額事故の安易な請求、事故履歴の未管理が続けば、保険料は重くなり、管理費会計や修繕積立金にも影響します。

つまり、目指すべきは、「必要な補償を確保しながら、無駄な保険料を抑えること」です。

★まとめ★

マンション総合保険は単なる保険商品ではありません。管理組合の財産を守り、将来の修繕や災害対応を支える、マンション経営の重要なインフラです。

これからのマンション管理では、保険証券、事故履歴、修繕履歴、設備点検結果、理事会判断をクラウド上で一元管理し、次回更新時にすぐ比較・検討できる状態をつくることが重要になります。

保険料が上がる時代だからこそ、必要なのは「我慢」ではなく「見える化」、事故を減らす管理、履歴を残す管理、合理的に判断できる管理へ。

マンション総合保険の見直しは、保険料対策であると同時に、これからのマンション管理を強くする第一歩です。

yacneeマンション管理士